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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)4398号 判決 2000年12月13日

原告

小川清子

被告

潘朝宗

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告に対し、金九三四万〇〇七三円及びこれに対する平成九年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告潘朝宗は、原告に対し、金一万六〇〇〇円及びこれに対する平成九年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告の負担とし、その六を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは連帯して、原告に対し、金一六五五万三七六〇円及びこれに対する平成九年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告潘朝宗は、原告に対し、金七万〇三九〇円及びこれに対する平成九年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  訴訟の対象

民法七〇九条(交通事故)、自賠法三条

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

(一)  交通事故の発生(甲一)

<1> 平成九年五月六日(火曜日)午前九時五三分ころ(晴れ)

<2> 大阪市西区川口二丁目三番一号

<3> 被告潘は、普通乗用自動車(神戸七八ね五〇九八)(以下、被告車両という。)を運転中

<4> 原告(昭和四八年九月一八日生まれ、当時二三歳)は、自転車(以下、原告車両という。)を運転中

<5> 被告潘側に一時停止の規制がある交差点において、被告車両と原告車両が出会い頭に衝突した。

(二)  責任(弁論の全趣旨)

被告潘は、一時停止の規制があり、交差道路を進行してくる車両の安全を確認して進行すべきであるにもかかわらず、十分に安全確認をしないで進行し、原告車両に衝突した過失がある。したがって、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。また、被告潘は、被告車両の保有者であり、自賠法三条に基づき、損害賠償義務を負う。

被告有限会社雅苑酒家は、被告車両の所有者であり、したがって、自賠法三条に基づき、損害賠償義務を負う。

(三)  傷害(甲六、七)

原告は、本件事故により、頭部外傷、右眼窩骨折、右上顎骨骨折、右眼窩下神経まひなどの傷害を負った。そのため、頬骨を整復するためにミニプレートやスクリューなどで固定する手術を受けた。

(四)  治療(甲二、五ないし七)

原告は、治療のため、松本病院に、平成九年五月六日から五月一二日まで七日間、さらに、大阪厚生年金病院に、平成九年五月一二日から五月二九日まで一八日間と平成一〇年三月五日から三月一〇日まで六日間入院したほか、平成九年五月一二日から平成一一年九月二日まで(実日数一八日)通院した。

(五)  後遺障害(甲一四ないし一六)

原告は、平成一一年九月ころ、症状固定したが、右頬部の変形、知覚障害、右眉毛下の二cm、右睫下の四cm、右口腔前庭部のそれぞれの瘢痕、下方視時の複視などの後遺障害が残った。

自動車保険料率算定会は、原告の線状痕などが等級表一二級一四号(右頬部の知覚障害を含む。)、複視が一四級の併合一二級に該当する旨の認定をした。

三  争点

過失相殺

四  原告の主張

被告潘は、一時停止の規制があるにもかかわらず、一時停止をせずに、左右の安全を確認しないで、また、徐行をしないで交差点に進入した。したがって、本件事故は、被告潘の一方的な過失によるものである。

原告主張の損害は、別紙一のとおりである。

五  被告らの主張

被告潘は、一時停止の規制があったので、停止線でいったん停止をした。そして、いったん停止後発進したが、左側に駐車車両がとまっていて左方の安全が確認できなかったので、左方の安全を確認できるまで、時速約二ないし三kmで徐行して進んだ。ところが、左方にかなりのスピードの原告車両が見えた瞬間に、被告車両の前部と原告車両が衝突し、原告車両が転倒した。

このように、被告潘は左方の安全を確認しながら被告車両を進行させていたが、原告は相当なスピードで交差点内に進入してきた。

したがって、被告潘より原告の過失が大きいというべきであり、原告の過失割合は七割を下らない。

第三過失相殺に対する判断

一  証拠(甲二一ないし二三、二六ないし二八、乙八ないし一九、原告と被告潘の供述)によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故は、南北道路と東西道路が交わる交差点で発生した。交差点に信号機は設置されていない。東西道路の東詰に一時停止の規制がある。

南北道路は片側二車線の道路である。東西道路は、一車線の道路であり、南北道路の東側は西行きの一方通行道路であり、その幅員は五・七mである。

南北道路の南行き車線の東側には歩道が設けられている。その幅は約四mである。

(二)  被告潘は、被告車両を運転して、東西道路の西行き車線を走行していた。本件事故があった交差点を左折しようと思っていた。

一時停止の規制があったので、停止線付近で一時停止をした。停止線の左側(南側)には、駐車車両が停車していた。

いったん停止後、右方を見ながら時速三ないし四kmくらいで発進した。

約二・一m進み、歩道の延長線上にさしかかったとき、左側(南側)から歩道上を進行してきた原告車両と衝突した。原告車両を発見すると同時くらいに衝突した。被告車両の前部左側と原告車両の前部が衝突した。

衝突後、被告車両は、〇・三m進んで停止し、原告車両は被告車両の正面に転倒した。

(三)  被告潘は、左方の安全を十分に確認しないで交差点に進入し、左方から進行してきた原告車両と衝突し、これを転倒させ、原告に右上顎骨骨折などの傷害を負わせた旨の業務上過失傷害罪で略式命令請求され、罰金刑を受けた。

二  これらの事実によれば、被告潘は、一時停止の規制があり、左右の安全を十分に確認して進行すべきであったにもかかわらず、左方の安全を十分に確認しないで進行し、左方から進行してきた原告車両に衝突し、転倒させた過失があると認められる。

そして、被告潘の進行した道路に一時停止の規制があり、被告潘が交差道路の安全を確認すべきであったから、それを怠った過失は大きいというべきである。

三  これに対し、被告らは、左側に駐車車両が停まっていて、左方の見通しが悪く、衝突するまで原告車両を見つけることは不可能であった旨の主張をし、被告潘は同旨の供述をする。

確かに、被告潘は、衝突直前まで原告車両を発見していないが、しかし、原告車両の発見が遅れた可能性もあり、それが衝突まで原告車両を見つけることが不可能であったということにはならない。被告らが提出した写真(乙八ないし一九)を検討しても、衝突するまで原告車両を見つけることは不可能であったとは認められないし、かえって、衝突する直前ころには、左方を見通すことができたことが窺える。また、捜査段階においても、左方を見通すことができたかどうかの捜査はされていないし、かえって、被告潘は一貫して、右方を注意していて、左方の安全確認を怠った旨の供述をしていた。

したがって、本件証拠によれば、原告車両を見つけることが不可能であった旨の被告らの主張は認められない。

四  もっとも、停止線の左側に駐車車両がとまっており、被告車両からの左方の見通しは悪かったし、原告も、駐車車両が停まっていることがわかるから、右方から進行してくる車両からの見通しが悪く、安全の確認も困難であることを認識できたはずである。そうであれば、原告も、右方から進行してくる車両に対し、通常よりいっそう注意して交差点に進入すべきであり、これを怠った過失があるといわざるを得ない。

五  これらの被告潘と原告の過失の割合については、八対二とすることが相当である。

第四損害に対する判断

一  治療費 六九万二二六〇円

治療費(原告の自己負担分)、入院雑費、通院交通費は、次のとおり認められる。

(一)  藤田病院分(甲一〇) 三万二七〇〇円

松本病院分(甲二五) 三三万〇〇〇〇円

厚生年金病院分(甲二四) 二三万五〇八〇円

同病院文書料(甲一二) 二万六二五〇円

(二)  入院雑費 三万九〇〇〇円

(三)  通院交通費(甲九) 二万九二三〇円

二  入通院慰謝料 一五〇万〇〇〇〇円

入通院慰謝料は、原告が負った傷害の内容、治療の内容、入通院の状況、被告らの対応などを検討すれば、一五〇万円が相当である。

三  休業損害 一四万四〇〇〇円

休業損害は、アルバイト代一四万四〇〇〇円の一か月分が認められる。(甲一三)

四  後遺障害慰謝料 二四〇万〇〇〇〇円

後遺障害慰謝料は、二四〇万円が相当である。

五  逸失利益 九七五万三八〇七円

逸失利益については、基礎収入は大卒女子全年齢平均賃金(平成一〇年)四五一万三八〇〇円、労働能力喪失率は一四%、期間は、平成一三年八月にニューヨーク大学を卒業する予定であることから、二六歳から六七歳まで四一年間のうち二八歳から就労するもの(係数は一七・二九四三-一・八五九四=一五・四三四九)と認められる。

六  事故証明書(甲一七) 一二〇〇円

七  物損 二万〇〇〇〇円

物損は、本件事故当時の時価額が損害となるが、自転車が一万円、眼鏡が一万円の合計二万円と認める。(甲一八、一九)

八  既払金 三〇五万二九四〇円

既払い金は、次のとおり認められる。

(一)  藤田病院の治療費 三万二七〇〇円(争いがない。)

(二)  休業損害分 一四万四〇〇〇円(争いがない。)

(三)  自賠責保険金 二二四万〇〇〇〇円(争いがない。)

(四)  松本病院の治療費 三三万〇〇〇〇円(争いがない。)

(五)  厚生年金病院の治療費 二〇万六二四〇円(乙四、五)

(六)  原告への支払 一〇万〇〇〇〇円(争いがない。)

合計三〇五万二九四〇円

九  結論

したがって、原告の損害は、別紙二のとおりである。

(裁判官 齋藤清文)

12―4398 別紙1 原告主張の損害

1 治療費 150万9840円

(1) 藤田病院分 3万2700円

松本病院分 33万0000円

厚生年金病院分治療費 105万2660円

同病院文書料 2万6250円

(2) 入院雑費 3万9000円

(3) 通院交通費 2万9230円

2 入通院慰謝料 361万0000円

3 休業損害 14万4000円

(1) アルバイト代 14万4000円

(2) 期間1か月

4 後遺障害慰謝料 360万0000円

5 逸失利益 975万3870円

(1) 基礎収入は大卒女子全年齢平均賃金 451万3800円

(2) 労働能力喪失率は14%

(3) 期間は26歳から67歳まで41年(17.294-1.859=15.435)

6 事故証明書 1200円

7 弁護士費用 170万0000円

8 物損 7万0390円

(1) 自転車 4万4390円

(2) 眼鏡 2万6000円

9 既払金 284万6700円

12―4398 別紙2 裁判所認定の損害

1 治療費 69万2260円

(1) 藤田病院分 3万2700円

松本病院分 33万0000円

厚生年金病院分 23万5080円

同病院文書料 2万6250円

(2) 入院雑費 3万9000円

(3) 通院交通費 2万9230円

2 入通院慰謝料 150万0000円

3 休業損害 14万4000円

(1) アルバイト代 14万4000円

(2) 期間1か月

4 後遺障害慰謝料 240万0000円

5 逸失利益 975万3807円

(1) 基礎収入は大卒女子全年齢平均賃金 451万3800円

(2) 労働能力喪失率は14%

(3) 期間は28歳から67歳まで(15.4349)

6 事故証明書 1200円

小計 1449万1267円

過失(原告20%)相殺後 1159万3013円

既払金 305万2940円

既払金控除後 854万0073円

7 弁護士費用 80万0000円

合計 934万0073円

8 物損 2万0000円

(1) 自転車 1万0000円

(2) 眼鏡 1万0000円

過失(原告20%)相殺後 1万6000円

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